法律学の勉強法

法律学をどのように勉強すべきか。
この点については、様々な教員や学生の様々な思惑のゆえか、諸説入り乱れるところである。そして、司法試験予備校の講義やテキストを否定的に捉える見解もないではない。しかし、そういう意見には惑わされず、黙って伊藤塾に行けばいいのではないか。
東京大学法学部の成瀬剛准教授(刑事訴訟法*1は、伊藤塾伊藤真氏の講義を受けて旧司法試験に合格されたという。成瀬准教授は2005年、伊藤塾のサイトにある合格体験記のページで以下のように仰っている。

基礎マスターは本当に一生の宝物と言っていいほど重要なものであると僕は考えています。司法試験の合格のためだとかそんな小さい話でなく、これから法律と関わる仕事を一生続けていくにあたって、法律というものの意味、その解釈論のあり方などをしっかり修得することができます。

http://www.itojuku.co.jp/14voice/2005shihou/7515.html

「(基礎マスターで)法律というものの意味、その解釈論のあり方などをしっかり修得することができます。」とのことだ。これだけでは判然としないものの、東大法学部の成瀬准教授によれば、東大法学部の講義やゼミでは「法律というものの意味、その解釈論のあり方などをしっかり修得することができ」ない、ということだろうか?


それはともかく、東大法学部の准教授(あと十数年すれば東大法学部教授)が伊藤真氏の「基礎マスター」「択一マスター」「論文マスター」「オープンスクール」を受講されて旧司法試験に合格され、「(伊藤塾の)基礎マスターは本当に一生の宝物」と仰っているのだから、それに倣うべきではないだろうか*2
東大法学部生もそれ以外の大学の法学部生も、すべからく伊藤塾の入門者向け講座を受講すべきである。

*1:http://www.j.u-tokyo.ac.jp/about/professors/profile/naruse_g.html

*2:成瀬先生は「絶対視は有害です」と仰っているけれども。

職務質問の技法と違法

警察公論』という警察官向けの月刊誌がある。同誌ではこれまでに、職務質問の方法を紹介する連載が何度か組まれている*1


その一つとして、「警察実務研究会」という実態不明のグループによる「クローズアップ実務 職務質問の要領と着眼点」という連載があった*2。本記事では、この連載からいくつかの叙述を紹介するとともに、その適否ないし当否を検討してゆく。


同連載には、色々と興味深い記述がある。
例えば、「薬物中毒者の身体特徴」として、「前歯が欠損」「唇をよくなめる(喉が渇くため)」「頬がこけている」「顔が青白い」「肌に艶がない」などの性状が列記されている*3
また、職務質問をすべき対象車(者)の具体的な着眼点として、自動車のナンバープレートが「ぞろ目の番号(暴力団員等が好む)」「ナンバーの合計が「9」になる車(合計が2ケタ以上の場合は下1ケタ。暴力団員等が好む)」等とある*4。なお、合計「9」については、オイチョカブと関係があることも指摘されている。


「加齢のせいか肌に艶がない」「食欲不振のせいか頬がこけている」という自覚のある者は、警察官から薬物中毒者であると疑われ、職務質問・所持品検査の要求を受けることを覚悟せねばならない。また、上記の条件を満たすナンバープレートの自動車に乗っている者は、暴力団の構成員であると疑われることを覚悟せねばならないのである。


車両に対する職務質問において、自動車に乗っている相手を降車させるテクニックも紹介されている。

「相手を降車させる方法として、尾灯等を軽く叩きながら、「片方切れているよ。ちょっと降りて確認して」などと、降りざるをえない状況を演出する。降りてきたら、「ああ、点いたよ。接触が悪かったんだね」と、しらをきり職質に入る。(所持品検査・車内検索等)」


『警察公論』62巻2号(2007年2月)、52頁

このように、警察官向けの雑誌では、職務質問の実施に当たり、平然と嘘をついて、相手を騙すことが推奨されている。警察内部のテクニックとして伝承されるならばまだしも、公刊物で公然と「騙し」を奨励していたことは意外であったが、警察関係者において、ある種の感覚の麻痺が生じているということであろう。刑法等における犯罪に該当せず、刑訴法・警職法に違反しなければ(あるいは、違反しても露見しなければ)何をしても構わないという意識があるのかもしれない*5


職質しようと声をかけたところ、相手が駆け足で逃走した場合、警察官はどのように対応すべきか。この点については、以下の通り。

「駆け足で逃走する相手に対しては、「追いかけ技」が極めて有効である。(「追いかけ技」とは…相手の背中を掴んで止めるのではなく、逆に背中を押してやる。すると、バランスを崩して前に倒れこむ。)」


『警察公論』62巻5号(2007年5月)、47頁

背中を突き飛ばすことが、「極めて有効である」として奨励されている。しかし、不意に背中を押された相手が、勢いで前に転倒し、顔面等に重傷を負ったらどうするのか。
ここで、「職務質問における有形力行使の限界」が問題となる。一般的には、警職法2条1項による質問のための停止行為については、強制捜査手続によらなければ許されないような強制手段に至らない程度の心理的な影響力ないし有形力の行使は、職務質問の目的、必要性、緊急性などを合理的に考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるということになろう*6。そして、犯罪の性質及び嫌疑が軽微であるにも関らず、対象者を突き飛ばして転倒させるという有形力の行使は、必要性・相当性を欠くものとして違法とされる可能性が高いように思われる*7。また、そもそも、「突き飛ばし」は、その程度・態様によっては、(警職法2条3項が禁止する)強制手段に該当する可能性もありうる。
もっとも、上記の通り、平然と嘘をつくことを奨励する警察実務研究会としては、「本職は押しておりません。相手が勝手につまずいて転びました。」などと警察官がしらをきることを奨励するのであろう*8

(続く)

*1:このうち、「警察庁指定広域技能指導官○○○○」などの個人が実名を出して監修している企画は、精神論とお行儀の良さばかり目につき、内容的・技術的にはあまり参考にならない。

*2:『警察公論』2006年9月〜2007年7月

*3:『警察公論』62巻3号(2007年3月)、52頁

*4:『警察公論』61巻9号(2006年9月)、57頁

*5:しかし、近年、ICレコーダーの録音で、警察官による脅迫・恫喝等が明らかにされている。ここ数年、小型機器による音声・動画の記録が極めて容易になった。警察官としては、「嘘をついてもどうせ露見しない」などと軽信すべきでなかろう。

*6:堀籠幸男最高裁判所判例解説(刑事篇)昭和53年度・412頁

*7:裁判所としても、「職務質問を受けて走り出したならば犯罪の嫌疑が高いから、転倒させるべく背後から突き飛ばすことも適法である」とは言い難いであろう。

*8:これについても*5を参照。

東京大学新図書館構想

東大付属図書館のページを見ると、「東京大学新図書館構想」が6月末に公表されていた。
「21世紀のアカデミックコモンズ」「ハイブリッドな図書館」といった抽象的な理念が掲げられているが、それらは曖昧模糊としてつかみどころがない。そして、構想には大雑把な理念が踊るが、そもそもどうして変えるのか、何を変えるのかが判然としない。
すなわち、総合図書館(以下「総図」という。)の現在の利用状況(方法・態様)はいかなるものか、総図の従来の施設・設備にどういう問題点があったのか、各学部・大学院の学生や教員が総図に何を求めているのか、総図が提供すべき施設と各部局で提供すべき施設とをどう分担するのかといったごく基本的な諸点について、何らの説明も見解もない。
「一年半の検討を経た」というなら、最低限これらの諸点は整理しておいてしかるべきだが、アンケート等の調査をした形跡は窺えない。
また、総図に東洋文化研究所図書室の蔵書を移して、総図4階を「アジア研究図書館」(蔵書70万冊)にすることについても何ら説明がない。東文研図書室の蔵書は2010年3月31日時点で約66万冊とのことだから*1、それら全てを総図4階に移すのだろう。総図4階は、実質、東文研の図書室になるということか。
自動化書庫は、膨大な図書館資料の効率的な収納・保管や、出納業務等の負担軽減には資するだろうが、同時に、今後は、総図の書庫に入り、期せずして興味深い本に出会うという経験の機会が失われよう。図書館を「多種多様な情報が共存する森のような場」「情報と人とがさまざまな形で関係し合う場所」と表現する人がいるが*2、自動化書庫の導入により、森の中を散策して、予期せぬ興味深い情報に出会う機会が大幅に失われるということだ。

公人の名誉について

ネット上では、大震災以後、以前にまして政府に対する批判等がかまびすしい。批判にも様々な質のものがあるが、中傷や罵詈雑言の類は、民主的政治過程のもとでどのように機能するだろうか。

長谷部恭男教授は、公共の利益と公人のプライヴァシー・名誉の関係という論点に関連して、以下のように仰る。

「政治家の場合でいえば、政治家に対する名誉毀損の成立範囲を限定することで、市民は政治家の公的活動について広く情報を得ることができる一方、名誉を気にかけない人間からだけ政治家を選ぶことを余儀なくされるおそれが生ずる。」


長谷部恭男『憲法(第4版)』(新世社、2008年)165頁

なお、ここで、名誉とは人の社会的評価、名誉権とは「人の社会的評価を保護する権利」のことである(前掲書162頁)。また、一般に名誉毀損には、事実摘示によるものと論評によるものがあるとされる。

さて、「名誉を気にかけない人間」として、長谷部教授が想定されているのは当然ながら、『自省録』のマルクス・アウレーリウスのような、「指導理性」に従い、敢えて社会的評価への関心を放擲しようと試みる内省的な為政者ではない。ここでの「名誉を気にかけない人間」とは、ただ単に厚顔無恥で傲岸不遜な人物のことであろう。
政治家が政策的批判の対象とされるのみならず、人々のフラストレーションのはけ口とされることまでも社会的に広く是認されるのであれば、たとえ政治家として優れた資質、潜在能力を持つ者であっても、実際に政治家を志すことは躊躇するであろう。そのような状況においてなお、dennoch! と覚悟を決めて政治家を志す有能な人物が現れる、ということはあまり期待できそうにない。

ネット規制強化法案(刑事訴訟法第197条第5項等について)

孫正義氏が、「ネット規制強化法案」に抗議されているというので、どのような法律案か調べてみた。

I will stop my tweet for next 3days. Japanese government has passed the law to damage freedom of speech over internet.
11:49 PM Apr 11th TwitBird iPadから .


本件に抗議して、今から3日間tweetやめます。ハンガーストライキみたいなもんです。 @uesugitakashi ネット規制強化法案」を閣議決定 http://t.co/WzxCjsa
11:41 PM Apr 11th TwitBird iPadから



http://twitter.com/masason

孫氏の貼られたリンク先は、「菅政権ネット規制強化 国民をもっと信用すべきと専門家指摘」と題する「NEWSポストセブン」のページである。そこには、以下のようにある。

菅政権は長く問題点が議論されてきたコンピュータ監視法案を、震災のドサクサの中で閣議決定した。 これは捜査当局が裁判所の捜査令状なしでインターネットのプロバイダに特定利用者の通信記録保全を要請できるようにするものだ。

http://www.news-postseven.com/archives/20110411_17219.html


上記記事中の「コンピュータ監視法案」、孫氏の言われる「ネット規制強化法案」とは、おそらく、平成23年3月11日に閣議決定され、同年4月1日に国会に提出されたという、「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」のことであろう。

ここで大震災当日の3月11日に閣議決定したというのが気になるが、リアルライブの「孫社長も引っかかった!? 「コンピュータ監視法案」の中身」によれば以下の通り。

永田町関係者は頭をひねる。「そもそも、この決定は3月11日午前の閣議で決まったもので、震災とは直接関係はありません。だから『震災のドサクサの中で閣議決定した』というのは誤報です。

http://npn.co.jp/article/detail/10715016/

たしかに、官邸のサイトにも、「閣議は、原則として、毎週火曜日と金曜日に総理官邸の閣議室において午前10時から開催される。ただし、国会開会中は、国会議事堂内の閣議室において午前9時から開催されることとなっている。」とある。そして、地震発生時には、菅総理らは参議院の決算委員会に出席していた。時間的には、地震の前に上記法律案が閣議決定されたということであろう。


さて、上記法律案は広範な内容をもっており、詳細な検討を行う時間的余裕がない。そこで、興味を持った一点についてだけ、簡単に言及してしておく。

このブログでは以前捜査関係事項照会(刑事訴訟法第197条第2項)について言及したが、上記法律案は、同法同条に3項乃至5項を追加している。

第百九十七条 (略)
② (略)
③ 検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押え又は記録命令付差押えをするため必要があるときは、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、三十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる。この場合において、当該電磁的記録について差押え又は記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。
④ 前項の規定により消去しないよう求める期間については、特に必要があるときは、三十日を超えない範囲内で延長することができる。ただし、消去しないよう求める期間は、通じて六十日を超えることができない。
⑤ 第二項又は第三項の規定による求めを行う場合において、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる


http://www.moj.go.jp/content/000072554.htm
(強調部分は筆者による)

追記
上記のURLのページは削除され、http://www.moj.go.jp/content/000073754.htmが同内容のページとなっている。

以上の文言を読む限り、基本的には197条2項の捜査関係事項照会と同種の性質の制度が想定されているように思われる。
すなわち、197条3項の要求は、捜査機関が強制処分を行う前に、事業者等に対して、通信履歴の電磁的記録を消去しないよう「求める」ものにすぎず、捜査機関がそれを「強制する」ことはできない。事業者等が197条3項の要求を拒否した場合に、罰則や制裁は存在せず、事業者等は捜査機関からの要求を無視・拒否することもできる。
そして、「差押え又は記録命令付差押えをするため必要があるとき」という限定があることからしても、「公正中立」な裁判所(裁判官)の令状が発付されてはじめて差押え等の強制処分が可能になるということは従前と同様である。


もっとも、197条5項の存在に違和感がある。同項によれば、197条2項の捜査関係事項照会や197条3項の要求を受けた相手方に対して、捜査機関は、「照会等をしたことは第三者には漏らすなよ」と要求しうることになる。
たしかに、捜査には密行性が求められる。しかし、聞き込み捜査の際、捜査機関が相手に対して「捜査中なので他言無用で願います」と言うことができるが、そんなことは単なる「お願い」なのだから、法令上の根拠は存在しないし、不要である
そうすると、このような「お願い」の根拠を殊更に明文化する意義はどこにあるか。おそらく、捜査機関の実際上の運用においては、「刑事訴訟法197条第5項という法律上の根拠があるのだから、照会等を受けたことについて口外しては駄目だぞ」などと、一般市民に対して心理的圧力をかけることに資するのであろう。しかしながら、規定の形式は197条2項と同じであって、197条5項に基づく捜査機関の「求め」を無視しても、罰則や制裁は存在しない。


【参考】
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY201103110149.html
http://www.j-cast.com/2011/04/13093027.html?p=all


ところで、http://www.moj.go.jp/content/000072554.htmのタイトルに「博」と表示されるのはなんでしょうか。
官房審議官の西田博氏の「博」か、司法法制部長の後藤博氏の「博」か。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/kanbu.html

追記
上記のURLのページは削除され、http://www.moj.go.jp/content/000073754.htmが同内容のページとなっている。

6月4日追記

孫正義氏が抗議された「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」について、法務省の国会提出法案のページのうち「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」については、「Q&A」や「修正点」等の解説資料が追加されている。http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00025.html

法務省の他の国会提出法案のページを見れば分かるとおり、他の法案では、「法律案要綱」「法律案」「理由」「新旧対照条文」の4点しか資料がなく、これが通例である。これらは、「理由」の説明があまりに簡潔であったり、その一方で「新旧対照条文」が膨大であったりするなどして、一般の国民には理解しづらいものである。

今回、法務省が「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」について上記のような解説資料を追加掲載したことは、おそらく、孫氏らの抗議自体や、その抗議がネット上で反響を呼んだことによるものであろう。私自身は孫氏らの抗議の内容がどのようなものであったか、その経緯の全てを把握はしていないが、抗議の意思を表明されたことに一定の意義はあっただろうと思う。

強制処分該当性の判断について

刑事訴訟法判例百選 第9版 (別冊ジュリスト 203)

刑事訴訟法判例百選 第9版 (別冊ジュリスト 203)

手に取ってみた。いくつか理解や納得ができないところがあったが、ここで1つだけ指摘しておく。
最決平6・9・16刑集48・6・420の解説を江口和伸判事が担当されている。江口判事は、香城敏麿先生による51年決定(最決昭51・3・16)の調査官解説(最判解刑事篇昭和51年度72-73頁)を引用し、これを踏まえて、平成6年決定の解説を試みている。しかしながら、江口判事による香城調査官解説の理解及び引用は、誤っている。

香城先生は、江口判事が引用されている部分(73頁)よりもやや前の箇所で、強制処分とは「抽象的な捜査根拠規定に基づいては捜査の必要性などの具体的状況がどうであっても許されない捜査手法であ〔る〕」と仰っている(72頁)。
しかるに、江口判事は平成6年決定の事案について、「本件措置は…必要性、緊急性が更に加わったような場合には許容する余地があり」云々と述べている。そして、6年決定の事案での6時間半の留め置きは任意捜査に該当するものであったという見解を示す。

すなわち、香城先生は「具体的状況がどうであっても」として、強制処分該当性の判断において具体的状況を考慮すべきでないことを明確に調査官解説の中で書かれている。しかしながら、江口判事は香城調査官解説を踏まえるとしているにも関らず、平成6年決定の事案とは具体的状況が異なる場合を想定して、平成6年決定の事案の強制処分該当性を判断するという明白な誤りを犯しているのである。

強制処分該当性の判断については、古江頼隆・法教319号184頁が参考になろう。江口判事におかれては、古江論文のほか、小早川義則・判評443号79頁、長井圓・刑訴百選(7版)7頁を読み、再考してみて頂きたい。

以前、最決平21・9・28について検討した。その際の疑問点は、排除法則での違法の重大性判断において、捜査の必要性を斟酌することの是非であった。刑事裁判官の一部に、捜査の適法性や証拠能力の判断にあたって、強制処分法定主義や排除法則の趣旨を軽視し、捜査の必要性を重視して結論を導く傾向があるとするならば、憂慮すべきことだと思う。

芦部憲法第5版

憲法 第五版

憲法 第五版

手に取ってみた。芦部憲法5版では、芦部憲法の審査基準論と近時隆盛しつつあるらしい比例原則の関係について1頁にわたって、高橋教授の見解が開陳されている。比例原則に対する理解と評価は高橋教授の曹時論文の延長線上にあり、一つの立場を示唆している。この理解と評価に対しては異論があるところであろうが、私にはよく分からない。
広島市暴走族追放条例事件に関する加筆部分で、高橋教授は「広汎・不明確ではないかが問題とされた」と指摘されているが(200頁)、最高裁では概ね広汎性だけが問題とされたこと、各個別意見もその点を巡って議論されていることに注意したい。


さておき、芦部憲法はよく読んだ方が良い。たとえば、職業選択の自由に関して規制目的二分論だけが論じられているわけではない。薬局距離制限事件の解説(『憲法判例百選(第5版)1』)で石川健治教授が指摘される「ドイツ憲法判例における段階理論(Stufentheorie)」の考え方については、芦部憲法でも本文で触れられている。もっとも、「段階」理論自体については、たとえば覚道豊治教授が『ドイツ判例百選』(1969年)で、宮崎良夫教授が『昭和50年度重要判例解説』(1976年)で夙に指摘されていたところであるが。


芦部憲法は、日本国憲法を参照しつつ、国会議員も記者も当然読んでいて欲しい。
2009年12月、習近平氏が天皇陛下に謁見した一件で、小沢一郎氏は当初の記者会見で、質問をした共同通信の記者に対して「君は日本国憲法を読んでるかね」と逆質問したうえ、「国事行為は内閣の助言と承認で行われるんだよ」と述べた。読んでいるのかいないのか、記者は返答も反論もしなかったようである。小沢氏は「国事行為」とする見解をその後修正していたが。小沢氏は国会議員にも支援者が多数いるが、初歩の憲法知識について、事前に打ち合わせ、レクチャーできる支援者は存在しないのだろうか、ということが不思議であった。