法律学における「合理性」

今日は法律学における「合理性」概念について少し考えてみましたが、結局のところ、よく分かりませんでした。「合理性」概念が用いられている「憲法判例」をみつくろい、以下に紹介します。それぞれの「合理性」「合理的」の語がいかなる意味で用いられているのかは、(私にとっては)今後の検討課題です。
もっとも、裁判官は「合理性」「合理的」の意義について深く考えておらず、多様な意味の含まれる使い勝手の良い概念、あるいは語呂の良い単語として、適当に用いているのではないか、という気もします。

最大判昭51・4・14
「投票価値の平等は、常にその絶対的な形における実現を必要とするものではないけれども、国会がその裁量によつて決定した具体的な選挙制度において現実に投票価値に不平等の結果が生じている場合には、それは、国会が正当に考慮することのできる重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるものでなければならないと解されるのであり、その限りにおいて大きな意義と効果を有するのである。」

「合理的に是認する」とはいかなる意味か。

最大判昭53・10・4
「裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理、判断するにあたつては、右判断が法務大臣裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である。」

「評価が合理性を欠く」とはいかなる意味か。

最大決平7・7・5
「そして、前記のとおり、本件規定を含む法定相続分の定めは、右相続分に従って相続が行われるべきことを定めたものではなく、遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮すれば、本件規定における嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は、その立法理由に合理的な根拠があり、かつ、その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく、いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り、合理的理由のない差別とはいえず、これを憲法一四条一項に反するものということはできないというべきである。」

一文の中で「合理」の語が4回用いられる。それぞれの意味を説明せよ。

最判平9・3・13
「法二五一条の三の規定は、このように、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。また、右規定は、組織的選挙運動管理者等が買収等の悪質な選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとして、連座制の適用範囲に相応の限定を加え、立候補禁止の期間及びその対象となる選挙の範囲も前記のとおり限定し、さらに、選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によってされた場合には免責することとしているほか、当該候補者等が選挙犯罪行為の発生を防止するため相当の注意を尽くすことにより連座を免れることのできるみちも新たに設けているのである。そうすると、このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。したがって、法二五一条の三の規定は、憲法前文、一条、一五条、二一条及び三一条に違反するものではない。以上のように解すべきことは、最高裁昭和三六年(オ)第一〇二七号同三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三〇頁、最高裁昭和三六年(オ)第一一〇六号同三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三七頁及び最高裁昭和二九年 (あ)第四三九号同三〇年二月九日大法廷判決・刑集九巻二号二一七頁の趣旨に徴して明らかである。」

立法目的が「合理的」であること。ある規制が手段として「合理的」であること。それぞれいかなる意味か。

最判平15・9・12
「このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。本件講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集した早稲田大学は、上告人らの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ、同大学が本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては、本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく、上告人らに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は、上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、上告人らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。」

「合理的な期待」とは何か。

最大判平20・6・4
「(3)以上によれば、本件区別については、これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの、立法目的との間における合理的関連性は、我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており、今日において、国籍法3条1項の規定は、日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。」

法学部の学生は、意味が分からなくても、とりあえず「合理的」の語を用いて文章を書くのが合理的なのかもしれません。