強制処分該当性の判断について

刑事訴訟法判例百選 第9版 (別冊ジュリスト 203)

刑事訴訟法判例百選 第9版 (別冊ジュリスト 203)

手に取ってみた。いくつか理解や納得ができないところがあったが、ここで1つだけ指摘しておく。
最決平6・9・16刑集48・6・420の解説を江口和伸判事が担当されている。江口判事は、香城敏麿先生による51年決定(最決昭51・3・16)の調査官解説(最判解刑事篇昭和51年度72-73頁)を引用し、これを踏まえて、平成6年決定の解説を試みている。しかしながら、江口判事による香城調査官解説の理解及び引用は、誤っている。

香城先生は、江口判事が引用されている部分(73頁)よりもやや前の箇所で、強制処分とは「抽象的な捜査根拠規定に基づいては捜査の必要性などの具体的状況がどうであっても許されない捜査手法であ〔る〕」と仰っている(72頁)。
しかるに、江口判事は平成6年決定の事案について、「本件措置は…必要性、緊急性が更に加わったような場合には許容する余地があり」云々と述べている。そして、6年決定の事案での6時間半の留め置きは任意捜査に該当するものであったという見解を示す。

すなわち、香城先生は「具体的状況がどうであっても」として、強制処分該当性の判断において具体的状況を考慮すべきでないことを明確に調査官解説の中で書かれている。しかしながら、江口判事は香城調査官解説を踏まえるとしているにも関らず、平成6年決定の事案とは具体的状況が異なる場合を想定して、平成6年決定の事案の強制処分該当性を判断するという明白な誤りを犯しているのである。

強制処分該当性の判断については、古江頼隆・法教319号184頁が参考になろう。江口判事におかれては、古江論文のほか、小早川義則・判評443号79頁、長井圓・刑訴百選(7版)7頁を読み、再考してみて頂きたい。

以前、最決平21・9・28について検討した。その際の疑問点は、排除法則での違法の重大性判断において、捜査の必要性を斟酌することの是非であった。刑事裁判官の一部に、捜査の適法性や証拠能力の判断にあたって、強制処分法定主義や排除法則の趣旨を軽視し、捜査の必要性を重視して結論を導く傾向があるとするならば、憂慮すべきことだと思う。