警察官による職務質問と所持品検査(持ち物検査)

【はじめに】
捜査関係事項照会」についてはネット上に参考になる情報(典拠を明示した情報)がほとんど無いように思います。一方、「職務質問」については、ネット上に色々と情報がありますが、間違った情報も見られます。
ここでは、職務質問と所持品検査(持ち検)について、私なりに簡単に書いてみます。なお、以下のリンク先の内容は、自ら実践するかどうかは別として、参考になるかと思います。
「任意同行は拒否できますよね。では職務質問は拒否できるのでしょうか? - Yahoo!知恵袋」
「Wearable Ideas RLL - ちょっと知識と勇気があれば誰でも職質は断れます!」


【法的根拠】
警察官が、「職務質問」として、あれこれ質問してくることがあります。その法的根拠は、警察官職務執行法警職法)の2条1項です。
また、バッグや衣服のポケットの中身を見せるように要求したうえ、「所持品検査」に及ぶことがあります。最高裁判所によれば、その法的根拠も、警職法2条1項です。*1*2


【法的性質―拒否できるか】
職務質問も所持品検査も、「任意」です。*3
最高裁判所は、「所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則である」と判示しています。*4
したがって、質問や要求に応じる法的な義務はありません。拒否したからといって、処罰されることはありません。はっきりと「いやです」と意思表示してよく、立ち去っても違法ではありません。*5
警察官は「警職法2条1項」や「判例」が法的根拠であると言うかもしれません。これに対しては、「職務質問・所持品検査は、任意ですか強制ですか。任意ですね。お断りします」として、拒否することができます。
警察官は、法的な議論を持ち出されると、「そうじゃなくて…」などと適当なことを言って軽く受け流し、何とか自分のペースに持ち込もうとします。この場合、「何が『そうじゃない』のですか、ごまかさないで下さい。職務質問・所持品検査は任意です」と言うことができます。


【拒否した場合の注意点】
上記の通り、職務質問や所持品検査は任意です。さらに、警職法2条3項は「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない」と定めており、刑訴法によらない強制の処分を禁止しています。
もっとも、職務質問や所持品検査を拒否して立ち去ろうとした場合、警察官は犯罪の嫌疑を深めて、腕を掴む、前に立ちはだかるなどの行動をとるでしょう。それらの行動について、裁判所は「相手の注意を促す程度の行為」「職務質問を行うための説得行為」等と評価することが多いようであり、直ちに違法とはなりません。*6
したがって、この際、警察官の手を振り切ったり、警察官の胸を押したりすると、適法に職務を執行している警察官に暴行を加えたとして、公務執行妨害罪(刑法95条1項)で現行犯逮捕(刑事訴訟法212条1項)される可能性があります。
ですから、警察官が腕を掴んだり、前に立ちはだかっても、自分は警察官に手を出してはいけません。この場合は、「違法行為はやめてください」「いやです」「放してください」「どいてください」と、毅然とした態度で、繰り返し、大声で言うほかありません*7
また、警察官はろくに挨拶もせず、初対面なのに「ため口」で、単刀直入にあれこれと質問を行います。そこで、それには答えず、自分から警察官の所属・氏名を尋ねてもよいでしょう。尋ねられた場合に所属・氏名を名乗ることは、警察官の職務上の義務です。
例えば、警視庁警察職員服務規程第17条は、「職員は、相手方から身分の表示を求められた場合は、職務上支障があると認められるときを除き、所属、階級、職及び氏名を告げなければならない。」と規定しています*8


【おわりに】
もちろん、犯罪者(自転車盗や覚せい剤所持等)でないならば、職務質問や所持品検査を拒否し続けるよりも、さっさと職務質問に答え、所持品検査に応じた方が、早く解放されることは確実です。
この文章は、刑事訴訟法警察官職務執行法の観点から、職務質問や所持品検査の法的根拠は何か、それらは拒否できるのか、どうしたら拒否できるのか等の諸点について、法学的な興味・関心を持った方のために書いてみました。

*1:警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合がある」(最判昭53・6・20(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319115420499621.pdf))

*2:最高裁判所判例解説(刑事篇)昭和53年度』214頁(岡次郎)も参照。

*3:最高裁のいう「任意」が国語辞書における意味とは異なるという指摘(上記岡解説213頁参照。)については、注5を参照。

*4:上記昭和53年6月判決。

*5:もっとも、最高裁は、「警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべきである」とも述べています(最判昭53・9・7(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319115903925390.pdf)。上記53年6月判決も同旨。)。この点については、警察官に対して明確な拒絶の言動を継続したならば、なお引き続いて行われる警察官の所持品検査は、その方法・態様の点において「強制にわたる」と評価されるものに至る可能性が高いと考えます。

*6:古い判例として、「夜間道路上で警邏中の警察官から職務質問を受け、巡査駐在所に任意同行された所持品等につき質問中、隙をみて逃げ出した被告人を、更に質問を続行すべく追跡して背後から腕に手をかけ停止させる行為は、正当な職務執行の範囲を超えるものではない。」(裁判所HPにある最決昭29・7・15の「裁判要旨」(原文ママ)。

*7:ただし、大声の出しすぎには注意です。軽犯罪法1条14号は、「公務員の制止をきかずに、人声…を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」について、刑罰を定めています(拘留又は科料)。

*8:http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sikumi/kunrei/keimu_pdf/jin1/007.pdf